モバイルスタンプラリーの企画考案(後編)

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O2Oに結び付くモバイルスタンプラリーシステムの企画考案
~ポケモンGOの影響とシステムの多様化について~

某社は、2018年2月現在、年間100案件を超えるカスタマイズ系モバイルスタンプラリーを全国各地へ提供している。又、某社が保有するスタンプラリーCMSのOEM提供先企業を含めた場合、どの程度のモバイルスタンプラリーが、某社製で実施されているのか把握できない。尚、某社のOEM形式のモバイルスタンプラリーに於いては、台湾などの海外でも実施されている。この様に日本国内海外を問わず提供する現状である。

そして”モバイルスタンプラリー”というシステムは、某社だけに限らず、多種多様なシステムやネイティブアプリが展開された上で、全国各地津々浦々で開催されると共にその開催主催者も様々な業種・業態となってきた。
それではまず、ここ数年の変化を解説する前にモバイルスタンプラリーの変革と言える”ポケモンGO”アプリの影響を記したいと思う。

●ポケモンGOによるモバイルスタプラリーの変革

2016年7月、日本に於いても”ポケモンGO”が、日常の中でプレイできるようになった。スタンプラリーという視点に於いてここまで世の中を大きく変えたスタンプラリーは無いのではないかと思う。まさに、人は目的を明確にすることで郊外へ出掛け、歩き、そして収集するものなのだと感じた。”ポケモン”という明確なキラーコンテンツが、発端にあることは間違いないが、収集することの楽しみを再確認し、そして何より外出することへのきっかけになった。当社においてもこのポケモンGOの広がりの中からデジタルで実施するスタンプラリーの問い合わせが急増した。

ポケモンGOは、GPS情報を利用し各地にいるキャラクターをGet(捕獲)するゲームである。これは、まさに広大なスタンプラリーであった。ゲーム内容も収集欲を途切らせることのない工夫がなされており、収集によるレベルアップ、同一属性のモンスターを集めるバッチ機能。また、取得バッチ数によるレベル設定もある。そして、なによりも出現キャラクターを全て集めるというコンプリート(満了)欲である。レアキャラという出現率が少ないキャラクターが、突如都内に出現し社会問題になったことも記憶にまだ新しい。

このポケモンGOが、一般的に実施されるデジタルのスタンプラリーに与えた影響は計り知れない。何より、地方でもデジタルスタンプラリーの開催数が飛躍的に増えたのである。
また、実施されるデジタルスタンプラリーにおいてもその内容にゲーム要素などが加わり、過去以上に“集める楽しみ”を重視したイベント的要素をもつモバイルスタンプラリーが増加した。

それでは、前編で記載した時期と2018年を比較の上、某社の肌感覚を踏まえながら市場の動向や変化そして、現状を解説したいと思う。2015年の状況から技術的、制作内容、市場の動向を鑑みた上で、特筆すべき点として次の4つを挙げる。

(1)地点認識方式の多様化
(2)台紙ツールからコンテンツとしての変化
(3)主催者の多様化と実施業界の変化
(4)派生スタンプラリーによる市場の拡大

それでは、順に解説する。

(1)地点認識方式の多様化(新規技術の応用)

従来スタンプラリーの地点認識方式としては、QRやGPSを利用した方式が多く電子スタンプ印方式については、当時はまだ新規性のある方式とされていた。
しかし、ここ数年の間に新しい技術が、一般化され現在では、様々な地点認識トリガーとなる技術が広まっている。まさに、地点認識における選択肢が広がると共に組み合わせることで新たなモバイルスタプラリーの仕組みの幅が広がっている。

特に某社では電子スタンプ方式と言われる、スマホ画面へのマルチタッチを擬似的に行い、物理的スタンプをスマホ画面に接触させる(電子スタンプ印)方式が、急増している。
その他にも、LED照明の光源を利用する光認識方式、フォログラムを利用した方式、近接無線通信方式(Felicaとは異なる)などがある。

某社の直近に於いては、”マルチタッチカード”と呼ばれるプリペイドカードの様なカード内面に電気的回路を印刷した上で人体静電気を利用した方式が話題を呼んでいる。これは、前述の電子スタンプ印方式のスタンプの仕組みをカードタイプにしたものと考えるとイメージしやすいのではないかと思う。
 
ここ数年、電子スタンプ印の利用が広がったことで人の手を介してスタンプを付与するということが一般化されてきている。人の手を介し台紙に印を押すという行為が、デジタルにおいても実現できるからである。
尚、数年前に話題となったBeacon形式については、モバイルスタンプラリーというキャンペーンの特性上、結果的に広く普及するところまでは進まなかったと感じている。

このことは、Beacon端末を利用する特性上、ネイティブアプリが必要となり、期間限定として行われるデジタルキャンペーンでは、ネイティブアプリの開発期間及び費用感が即していないと考えている。
様々な技術を持つ多方面の企業よりその新規技術の展開について相談を受けることが多い。新規技術を世に広めるために、スタンプラリーというコンテンツを利用し普及できないかと相談を受けるのである。

(2)台紙ツールからコンテンツアプリとしての変化

数年前までモバイルスタンプラリーは、紙面台紙をデジタルにすることに意味があり、台紙ツールとして利用する展開が多かった。デジタルにすることでその後の集計が容易になり、また参加者動向を把握することができるからである。
現在でもこれは必要条件となるが、企画及び開発時の視点が、「如何にユーザーを楽しませるか?」という所へ移ってきていると感じる。これは画面デザインに現れてきていると共にスタンプを集める過程を楽しんで欲しいというゲーム性やコンテンツ性の見せ方という部分に表れていることからもわかる。

冒頭でお伝えした、ポケモンGOの”集めることへの楽しさ”を重要視するようになったのだということである。これは、従来の様に”集めたことの楽しさ”とは異なる。人の満足感は、一瞬で終わってしまうことが多いが、満足するまでの過程を楽しむということは、モチベーションの向上そして何より深く意識化に感動を与えることができる。

全国で開催されるモバイルスタンプラリーが増えたことにより”モバイルスタンプラリー”とはどのような内容であるかをすでに認識し、その感覚が時期フェーズに移行しているだと感じる。所謂、”ツール”としてのモバイルスタンプラリーから、”コンテンツ/メディア”としての使われ方に変わってきているのである。

このことが現れている事例を紹介する。某作品の展示会が開催された。従来発想であれば、展示作品を周遊閲覧させることを目的としてモバイルスタンプラリーが実施され、地点スタンプを取集することでインセンティブが付与されるという企画であったかと考える。
しかし、現在では少し様子が違っている。それは、展示されている作品に対して来場者のお気に入り作品に投票してもらうことでモバイルスタンプラリーを行わせるというものである。

まずは、参加者に会場に来場して頂く。来場時にスマートフォンからキャンペーンサイトにアクセスし、空枠となっているスタンプ台紙をスマートフォンに表示させ、そこから展示物の周遊が始まる。会場を周遊し展示作品の中でお気に入りとなる作品を見つける。この作品横には、QRコードが掲示されておりQRを読み取ることで、スタンプが付与されスタンプ台紙が埋まっていくのである。気に入った5つの作品に投票するとスタンプ台紙が満了となり、設置カウンターにてインセンティブと引き換えるという仕組みである。

特筆すべき点は、気に入った作品に投票する際に、該当作品への”ひとことコメント”を共に投稿させるところである。後日、コメント投稿を集約すれば、作品に対する感想が一目瞭然となり従来のように気に入った作品の感想を個別に回答してもらう必要はない。しかも前述のとおりに投票と共にコメントをもらうことで、作品の人気投票とアンケート収集が同時に行えるのである。
また、お気に入りを探すという目的を来館者に与えることで、ひとつひとつの作品を深く見ることに繋がり、より作品への興味を抱かせることができる。

このように一石二鳥ではなく、一石三鳥ともいうべき”モバイルスタンプラリー”の利用方法が出てきているのである。
その他にも、現在では紙面の置き換えではなく、参加者を楽しませる仕掛けをふんだんに組み込んだスタンプラリーが多く実施されており、まさに”モバイルスタンプラリー”ではなく、”デジタルスタンプラリーコンテンツ”と呼ぶべきものに変わりつつある。

(3)主催者の多様化と実施業界の変化

数年前までは、システムを提供する先は、交通系企業、商業施設、イベント関連企業そして、自治体(観光関連)であったが、近年は顧客の業態が広がったと感じる。
従来は、自治体で観光周遊を目的として実施されてきたスタプラリーであるが、そのスタンプラリーは健康分野へも広がっている。ウォーキングが健康へ与える影響、そして国策となっている”健康寿命の向上”などが要因として考えられる。これはポケモンGOの影響があると考えている。

また、施設の周遊を目的としてきたスタンプラリーは、交通系企業での開催が多かったのだが、近年流通系企業へも広がってきた。これは、厳密な地点周遊とは異なるが、電子スタンプ印などを利用することで、購買のタイミングでスタンプを付与しやすくなったことが考えられる。
当方では、地点周遊を目的とするものを”スタンプラリー”と呼び、同一地点でスタンプを付与する形態を”スタンプカード”と呼ぶことにしている。一般に定期的にスタンプを付与するイベントごとを”スタンプラリー”と呼ぶ様である。

従来は、ネイティブアプリを作成の上、店舗に来店、購買することでスタンプを付与していた企業も現在では、短期キャンペーンでのスタンプシステムを構築することが多くなってきている。マーケティングでいうところのロイヤルカスタマーへは、ネイティブアプリ形式のスタンプを運用し、短期集客やロイヤルカスタマーを増加させるためのキャンペーンには、短期スタンプラリーを行うという方式が主流になりつつあるようだ。
また訪日外国人向けのモバイルスタンプラリーにおいても、2020年のオリンピック開催に向けて各地で実証実験を踏まえ件数が増加しているようである。

(4)派生スタンプラリーによる市場の拡大

最先端を発信する東京。当然ながら、モバイルスタンプラリーが多数実施されたのは、関東であった。それは、東日本全体へと広がっていった。2015年頃、西日本へ提供するスタンプラリーの案件数は、僅かなものであったがそれ以降大きく様変わりし東日本と変わらない程の相談を受けるようになった。ただ東日本と少し異なるのは、東日本は新しい技術を利用したモバイルスタンプラリーが多く、西日本は、従来からのQRやGPSを利用した企画が多いのである。

さて、”派生スタンプラリー”であるが、”(3)主催者の多様化と実施業界の変化”で触れたヘルス(健康)分野での事例を紹介したい。

ヘルス分野でのスタンプラリーの事例は、2018年1月10日よりスタートした滋賀県内の10市町や協会けんぽが共同で開始したiOS/AndroidOS向け健康促進増進アプリ「BIWA-TEKU(ビワテク)」アプリである。この原稿執筆段階で公開後1.5ヶ月ほどしか経過していないが、滋賀県内外を合わせた利用者は、2,000名を超えている(その後2021年の1年4ヶ月後にに30,000名を突破)。これは当初想定していた利用者数よりもかなり早いペースで利用が広がっている。

”ポケモンGO”の話題を受けて、”歩くこと”の影響というのは、前述通りである。この”歩く”を健康促進に活かそうした事例である。
BIWA-TEKUアプリは、健康ウォーキングという中に”ポケモンGO”と同様に”歩くことの目的を与える”ことに注力しさらに健康促進に繋げ、スタンプ集めを通して健康への斡旋を行なっている。一般にウォーキングが健康に良いことを人々は認識している。しかし、ウォーキングとはいえ、むやみやたらに歩けるものでもない。”歩く”ことに対する目的とモチベーションの維持が必要なのである。

そこで、BIWA-TEKUアプリでは、”歩く目的”をスタンプラリーコースとしてコンテンツ化し、コース達成の満足感及び次コースへのモチベーションアップを実現。継続して歩き続けることが出来るように工夫されている。また、現地でのスタンプラリーコースを完歩することが難しい場合は、日々の歩数を元にバーチャルでスタンプラリーコースを達成できる仕組みも取り入れている。

尚、ウォーキングもさることながら、県内各所で開催されるスポーツ観戦や健康施設へ出かけて行き健康活動を行うといったことでもスタンプ(ポイント)取得が行える為、常に健康への意識づけが出来るように工夫されている。
現在は、ウォーキングや健康関連行事への参加が主であるが、来年度中は、健康機器販売を行うオムロンヘルスケア社協力のもと血圧計測や体重測定機器との連動が予定されている。さらに健康に関する数値データをBIWA-TEKUアプリに集約することで健康アドバイスが受けられるといった計画も立案されている。
BIWA-TEKUアプリのリリース後は、全国各地の自治体・健康経営を目指す企業から多く問い合わせを受けておりモバイルスタンプラリーは、従来以上に様々な分野への展開が可能であることが分かる。

●今後の動向など

さて、ここまで2015年と2018年でのスタンプラリーの違いなどを解説してきた。
今後、”モバイルスタンプラリー”というデジタルなスタンプ集めは、技術の革新と共に様々に変化していくことは容易に考えつく。そして、更にコンテンツ化されたものになるであろうとも考える。
当方は15年以上現場で利用するデジタルプロモーションの普及に努めてきた。これについて肌感覚に近いところで普及の鍵となるのは、2つではないかと考えている。

1つ目は、“キラーコンテンツ”。2つ目は“一般化した技術の応用”である。
スタンプラリーは、デジタルになったとはいえ、その仕組みの本質は、旧来から変わっていない。流行り物として最先端の技術で話題を呼ぶことも大切だとは考えるが、実際の普及という視点で考えれば、すでに一般的となった技術が、価格面、企画面、制作に於いても手頃に利用でき利用者に受け入れてもらいやすいことを長く体感してきた。
この様な事から当方の開発及び企画スタンスは、従来技術を活かしコンテンツ(仕組みづくり)で工夫するという所に落ち着いた。この様に利用者に飽きられることのないサービスは、最先端を追うものではなくとも市場の拡大や普及が可能なのだと考えている。

以上、これからも”モバイルスタンプラリー”という”キーワード”にこだわると共に観光のみならず、購買斡旋やヘルス(健康)分野といった様々な分野に於いてデジタルで実施するスタンプラリーを展開していきたい。このスタンプを収集するという仕組みが、利用者を”楽しませる”しいては、収集に於ける”過程を楽しませる”ことに繋がれば更に市場が広がり業界活況に広がるのではないかと期待している。

*2018年代表理事が某月間雑誌へ寄稿した文章を一部改編の上、掲載しています 。時代背景など一部直近と異なるところがあります。