モバイルスタンプラリーの企画考案(前編)

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O2Oに結び付くモバイルスタンプラリーシステムの企画考案

●スタンプラリーという施策

スタンプラリーの発祥は、原点を室町時代とされ霊場巡礼にみられる所謂、御朱印や納経印を収集して社寺をまわるものと言われている。今般スタンプラリーは、インターネットを利用したものから従来の用紙に印を押印して回るものと形式はさまざまなものに変わっているが、近年では社寺で朱印を収集する従来からのスタイルに於いてもデザイン性のある御朱印帳が販売され、若い女性を中心に人気を得ている。しかし、海外に於いては、印(スタンプ)を集めて回るという風習がなく日本独自の文化であるとも考えられる。
日本に於いて古来より印を集めてまわるという風習は、巡回の証を記録すると共に思い出をも記録するという意味があり、スタンプラリーに於いて面白いと感じてしまうのは、こういった我々日本人独自の習性であるのかもしれない。

●ニーズ・提供の現況

 某企業では、2011年よりモバイルスタンプラリーシステムのサービス提供を開始した。その後問合せ数並びに提供数は、飛躍的に伸び2016年度に於いては年間300件程度のスタンプラリーに関する問合せが発生し、2020年現在では年間問合せ件数は、1,000件を超えている。
 提供数をみてみると2016年度の受託開発に於けるシステム提供数は、60件程度であった。その後2020年では年間200件程度である。これは当時、受託開発方式に限れば全国で最も利用されているスタンプラリーシステムであったと考えている。では何故、モバイルスタンプラリーシステムが、それほどまでに要求され、現在のニーズは、いかなるものなのかを説明していく。

●企画検討時に抑えておくべき5つのポイント

1.“企画を優先させるべき”である事
2.企画・制作・運用とそれぞれ課題が異なる事
3.QR/FeliCa等最適な取得方式を選択する事
4.スタンプラリー検討には3フェーズある事
5.高可用性・短納期・低価格・高信頼性

Point.1“企画ありき”

 システム構築を伴う企画考案は、制作予算を抑える為に既存ASPサービスを軸とした上で企画の肉付けをすることがよくある。これは、既存ASPサービスで提供される機能を踏まえた上で企画立案することから、企画の幅が小さくなってしまう。本来企画は、参加者や主催者が面白いと考えたものである必要があり、企画に併せたシステムが必要なはずだ。また、独自性のあるものが参加者にも喜ばれる。某会社が提供するシステムの8割は自由な発想で企画考案されたものだ。

point.2“場面毎に検討課題が異なる”

2013年WEBサイトにてスタンプラリーシステムの案内を始めた際、多数の問い合わせがあった。しかし、その5割は、「モバイルスタンプラリーを検討しているが、企画立案方法が分からない」という根本的な内容であった。このことから某企業では、企画立案者がすぐに利用可能な企画書面の提供を始め、取得地点設定のコツ、開催運営時の補助資料など企画全体を通した企画・運営サポートが行える体制を整えた。
これは、モバイルスタンプラリーの企画立案は、ハードルが高いものであったということだ。全体像・ロケーション・運営・システム・集計と様々な要素が絡み合うからだと考えられる。

Point.3“多彩なスタンプ取得ロジック”

 取得ロジックに於いて最も実績あるのが、「QRコード」を利用したスタンプラリーだ。各地点に掲出されたQR記載ポスターのQRコードを読み取ることで、スタンプ付与サイトへ誘導しスタンプを付与する。
 QRの利点は、現地でのポスター掲示だけで良いため、開催に係る費用を削減できる所にある。但し、デメリットは、QRをカメラ撮影し、現地にいない人へ送信することで不正取得されてしまう。
過去のFeliCaリーダー端末は、スタンプの重複取得や不正参加を最大限阻止したい場合に利用できた。FeliCaリーダー端末で利用できるワンタイムURLの発行により不正取得を防止するとともに、端末機が設置された場所に必ず来なければならない場合に有効だ。しかしその後iPhoneではNFCチップが非搭載なりこの運用もできなくなってしまった。(但し、その後iPhoneにもNFCチップが搭載される)QRやFeliCaの他にもGPS/AR/ Beacon/音響と様々なスタンプ取得ロジックを用意し企画に最適な方法が考えられるが、現在2番目に提供数の多い取得方法は、GPS形式である。

Point.4“取得方式・満了タイミング・特典提供”

 企画立案は、以下の3フェーズに分けて基本検討を行う。
第1が、「取得方式」でありスタンプ取得時の取得形式である。QR/FeliCa/GPS/AR/Beacon/音響といった接触媒体をいう。
第2が、「満了タイミング」である。地点数が○○カ所あり、その全ての地点での取得を必須とするのか、若しくは、内数カ所で満了とするのかといった部分だ。
第3が、「特典提供」。満了した参加者へどのような特典を与えるのかという部分だ。例えば、応募フォームでの入力、壁紙などのデジタルコンテンツの提供、画面提示による景品と引き換えるといったロジックがある。

この3フェーズをスタンプラリーの骨子として、更に面白いと考えられるロジックやギミックで肉付けしていく。例えば、クイズ出題、ゲーム、地点案内情報、Facebook、TwitterなどのSNS連携などがある。

Point.5“高可用性・短納期・低価格・高信頼性”

 モバイルスタンプラリーは、企画単位での制作の柔軟性が求められる。開催期間は、限定的に行われることが多く3か月未満が8割となる。又、多くの企画案件は、1ヶ月未満にてシステム完成させる必要がある。カスタマイズが自由・1ヶ月以内で提供・システム予算100万円前後・システムダウンが発生しない安定性がある。これらの高い要望を満たす必要がある。しかし、この要望を満たす事の出来る制作会社は、まだまだ少ないと言える。

以上、企画検討時に抑えておくべき視点を紹介した。このポイントを踏まえた上で、“O2Oに結び付く”かつ“参加者を増やす”という主催者にとって非常に重要な視点から更に説明していく。ポイントは、4つだ。

●施策を成功させる4つのポイント

1.参加ターゲットを見定める事(万人受けを狙わない)
2.主催者満足に陥らない事(複雑化しない)
3.地点毎に楽しみを取り入れる事(飽きさせない)
4.紙面とデジタルで同じ企画を開催しない事(本末転倒にならない)


Point.1“参加者ターゲット”

 どの様な参加者を狙うのか?を決定した上での立案が、マーケティングとして当然ながら最重要だ。また、実施する上での背景・ロケーションについても検討が必要だ。主催者目線としての万人受けする企画程意外と参加者が少なくなってしまう場合がある。

Point.2“複雑化しない”

 稀に複雑なロジックを組み上げるなどして開催される場合がある。スタンプラリーシステムをコンテンツサイトとしてみた場合は、楽しそうなのだが、ロジックが複雑になるほど、参加者にとっては、参加しにくいものとなる。最初の印象に於いて「楽しそう!」と感覚的に思ってもらえることが重要だ。

Point.3“地点毎の楽しみ”

 スタンプラリーへの参加から満了までには、数時間から数日、数か月の時間を所要することが殆どだ。そのため時間を要するスタンプラリーに於いて参加者が途中で飽きてしまわない仕組みは重要だ。各地点毎にクイズ出題をする、各地点に因んだ案内を記載するといった、地点ごとに楽しみや変化のある工夫が必要となる。

Point.4“紙・デジタルの併設は、タブー”

 モバイル端末を持たない人向けに紙面スタンプラリーを同時並行で実施する場合がある。この場合、格段にデジタルでの参加者は、減少する。これは手軽さに於いて紙面に勝るものはないという事だ。人の性質から手軽に手にとれる紙面を選択してしまうようだ。デジタルが故の工夫やアイデアを入れた上で、専用企画として開催することをお勧めする。

●活用メリットと事例など

 モバイルスタンプラリーを実施することで紙面スタンプラリーとは、異なる情報を取得することが可能だ。
参加時間帯、参加経路、地点後の参加者数などマーケティングの分析情報として利用できるものが多くある。近年この情報をマーケティング活動へ活かしていくという要望が強く主催者側からみられる。
事例として3か年計画で2014年度からスタンプラリー実施しているケースがある。
北海道全域を対象としたスタンプラリーだ。2015年度で2回目の開催となり、前年に於ける観光客の動向や、周遊情報から意図的に周遊ルートを誘導出来ないかと実証実験しているケースだ。その後継続に現在も開催されおり、毎年仕組みもユーザー思考などに併せて進化している。

また、紙面からモバイル(QR式)スタンプラリーへ移行した、和歌山県九度山町の事例を紹介する。
「真田幸村モバイルスタンプラリー in 九度山2015」
主催:和歌山県九度山町役場
開催:2015/10/1~2016/2/29
方式など:QR式、地点数23カ所

和歌山県の九度山町は、世界遺産が町内に複数所在している全国でも特徴のある土地柄である。現在注目されている「真田幸村」に因んだ地ともあって多くの観光客が訪れている。
九度山町では従来、紙面形式のスタンプラリーを実施していたが、開催後の集計の煩わしさや参加者がどのようなルートを巡っているのかという具体的な分析を行う為、初の試みとしてモバイルを利用したQR式スタンプラリーを開催した。
 町内の主要なポイントにてQR記載ポスターを掲示した上で参加者の動向調査を行っている。
又、大阪市内から九度山へ動員状況を把握すべく大阪市内でもスタンプラリーを展開している。
この実証から2016年度のスタンプラリーへその結果を反映させて更にO2Oとしての計画を検討された。
勿論、応募データの集計作業が簡便になったことは、記載するまでもない。

九度山町の事例で特筆すべき点としては、
・オリジナリティーのある画面である事
・周遊に対して必須地点を設けている事
・スタンプ取得の際にミニゲームを用意した事
・ゲームで得たポイント数により景品が異なる事
独自の面白味を付加した上で、スタンプラリーが展開されており、参加者を継続して参加させる工夫がなされていた。

●今後の動向

 翌年度の予算の検討に関し、地方からの問い合わせが多く入っている。特に観光誘致施策を目的として、多数の官公庁観光部署より相談が寄せられている。このことから今後全国の自治体などで開催されるスタンプラリーの数はさらに増加すると考えられる。また、大規模公園・電鉄系・芸能関係のプロモーションなどロケーションを利用する施策に必ずモバイルスタンプラリーが検討されるようになっている。

過去の実施経験から今後のスタンプラリーシステムでキーワードと考えることが、次の3つだ。
1.QR同様、手軽に取得できる端末上のプラットフォーム化が重要
2.電子スタンプ印やNFCを利用した現実社会でアクションを起こすことで付与される方式が重要
3.コンテンツとしての楽しみがあり、柔軟なカスタマイズが出来ることが重要

●最後に

モバイルスタンプラリーに関して記載してきたが、QR/FeliCaなど各種技術を活かすためには、それをどの様に現場というプロモーションに落とし込むのかが非常に重要なことであると考えている。
素晴らしい技術を如何に一般の方に分かり易く理解してもらった上で、その技術の複雑さを感じさせない構築が必要である。
スタンプラリーは、古くから存在し様々な所で実施されているが、モバイルを利用したスタンプラリーに於いては、未だに浸透しきっておらず成長過程にあることを理解して頂けると幸甚だ。
又、技術の革新と共に、それを現場に落とし込んでいく企画立案者の知識向上や実施を試みる企業側のスタンスも重要であると考えている。
 

*2015年 代表理事が某月間雑誌へ寄稿した文章を一部改編の上、掲載しています。時代背景など一部直近と異なるところがあります。